菊水健史

「ヒトは、母親1人で子どもを育てる種ではありません。母親が中心ですが、祖母、姉妹と共に、集落の女性たちが協力して育てます。男性は、子どもがある程度大きくなってから子どもと遊ぶようになります」  まさに、戦前の日本だ。  ヒトは共同養育の傾向が顕著で、子育てに関わる女性の人数がとても多く「集落に住む女性全体が育児に参加する種」とさえ言われている。 「私は、今、その形が崩れているのが、育児が大変になっている最大の原因だと思います。経済効率をよくするために若年人口を都市部に集中させ、転勤族を作った企業がそれを壊してしまいました。昔の長屋暮らしにあった深い懐から若者を引っ張り出し、ヒトという種が本来持つ、子どもを育むネットワークを分断してしまったのです。今、地域コミュニティーを活性化しなくてはといろいろなプロジェクトが動き出しましたけれど、まだ、子どもを簡単に預けられるご家庭はほとんどないですよね。お母さんは、自分が体調を崩しても耐えてひとりで子どもをみるしかない。その矛先が、父親に向かっているのです」 「では、大家族に戻ればいいのかというと、それも、生物学的に見て心配があります。生物には、自分が育てられたように子どもを育てるという『世代間連鎖』という現象があるからです。子育てには大家族がいいのですが、核家族で育った子どもは大家族の中で生きていく術を学んでいません。最近は、夫婦2人の暮らしも煩わしいという人が増えています。こうして、ヒトは、どんどん孤立の方向に向かっています」